EJU(日本留学試験)完全ガイド:試験の全貌から科目・スコアの目安まで徹底解説
目次
日本の大学(学部レベル)への進学を目指す外国人留学生にとって、絶対に避けては通れない最重要の試験、それがEJU(日本留学試験:Examination for Japanese University Admission for International Students)です。
国立・公立大学のほぼ100%、そして私立大学の約60%が、外国人留学生の入学選考においてこのEJUの成績提出を義務付けています。しかし、その出題形式や採点方法は特殊であり、日本の一般的な大学入試や国際バカロレア(IB)、A-Levelsなどとも全く異なる対策が求められます。
本記事では、EJUの基礎知識、各科目の詳細なシラバス、大学レベル別の目標スコア、具体的な対策法、さらには近年人気の「英語学位プログラム」における扱いに至るまで、圧倒的な詳しさで徹底解説します。
1. EJU(日本留学試験)とは?

EJUは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が主催する、外国人留学生が日本の大学・短期大学・専門学校等に入学する際に必要となる「日本語力」および「基礎学力」を測定するための共通試験です。2002年に導入され、それ以前の「日本語能力試験(JLPT)」と「私費外国人留学生統一試験」を統合する形でスタートしました。
EJUの基本概要
- 実施時期: 年2回(第1回:6月第3日曜日、第2回:11月第2日曜日)
- 実施場所: 日本国内の各都道府県、および海外14カ国・地域の主要都市(アジア圏中心)
- 出題言語: 「日本語」と「英語」から選択可能(※「日本語」科目は当然日本語のみでの出題)。大学の指定に合わせて出願時に選択します。
- 成績の有効期限: 過去4回分(最大2年間)の成績が有効です。ただし、大学・学部によっては「直近の11月試験のみ」「今年度の成績のみ」と指定される場合があるため、各大学の募集要項の確認が必須です。
- 渡日前入学許可制度: 一部の大学では、自国にいながらEJUの成績と書類選考のみで日本の大学の入学許可を得ることができる「渡日前入学許可」を実施しています。
- 文部科学省外国人留学生学習奨励費(予約制度): EJUで特に優秀な成績を収めた受験者は、日本の大学に入学後、毎月一定額の奨学金を受け取れる制度の「予約者」として選ばれます。
JLPT(日本語能力試験)との違い:JLPTが「日常会話からビジネスまで」の総合的な日本語力を測るのに対し、EJUの日本語科目は「大学の講義を理解し、学術的なテキストを読み解き、論理的なレポートを書けるか」というアカデミック・ジャパニーズに特化しています。
2. 科目選択の絶対ルール
EJUには「日本語」「理科」「総合科目」「数学」の4つの科目が用意されています。受験者は、志望する大学・学部が指定する科目を選択して受験します。最大で3科目まで受験可能です。
文系・理系の一般的な科目組み合わせ
日本の大学は文系・理系で受験科目が明確に分かれています。
- 文系学部の一般的な受験科目(計3科目)
- 日本語 + 総合科目 + 数学(コース1)
- ※一部の私立大学文系(文学部や外国語学部など)は「日本語」のみ、あるいは「日本語 + 総合科目」の2科目で受験できる場合もあります。
- 理系学部の一般的な受験科目(計3科目)
- 日本語 + 理科(物理・化学・生物から2科目) + 数学(コース2)
- ※医学部、工学部、理学部などの難関理系は、ほぼ間違いなくこの3科目(理科は物理・化学指定が多い)が必須となります。
最重要の試験ルール :「理科」と「総合科目」は試験時間が同じ枠(同時間帯)で設定されているため、同時に受験することは絶対にできません。 出願時にどちらか一方を選ぶ必要があります。
3. 各科目の詳細解説(シラバスと配点)
EJUの出題範囲は、日本の高等学校の学習指導要領(カリキュラム)に準拠しています。それぞれの科目の詳細を深掘りします。
① 日本語(Japanese as a Foreign Language)
留学生にとって最も重要で、配点も高い科目です。試験時間は合計125分と非常にタイトです。
| 分野 | 設問数 | 試験時間 | 配点 | 内容と特徴 |
| 読解 | 25問 | 40分 | 200点 | 説明文、論説文、大学からの通知文などを読み解く。1問あたり1分半で解く超スピード勝負。スキミング(拾い読み)能力が必須。 |
| 聴読解 | 12問 | 聴解と合わせて55分 | 100点 | 音声を聞きながら、同時に問題冊子にある図表やグラフを読み取って答える形式。大学の講義スライドを見ながら説明を聞く状況を模している。 |
| 聴解 | 15問 | 同上 | 100点 | 音声のみを聞いて答える。講義の一部、学生同士の議論、ゼミでの発表などがテーマ。メモ取り(ノートテイキング)の技術が必須。 |
| 記述 | 1問 | 30分 | 50点 | 与えられた2つのテーマから1つを選び、400〜500字で自分の意見を論理的に書く(小論文)。※この点数は総合スコア(400点)には含まれず、別途評価されます。 |
② 総合科目(Japan and the World)
文系受験者が選択する、EJU独自の科目です。日本の高校の「公民・地理・歴史」を融合した内容です。
- 試験時間: 80分
- 配点: 200点(満点)
- 出題範囲:
- 政治・経済・社会: 現代の日本の政治体制、憲法、日本経済の仕組み、少子高齢化、国際政治、国際機関など。
- 地理: 現代世界の特色、地球環境問題、人口問題、食料・エネルギー資源、各国の産業。
- 歴史: 産業革命以降の近現代史(日本史および世界史)。江戸時代以前の古い歴史は出題されません。
- 特徴: 単なる暗記ではなく、データやグラフを読み解く論理的思考力が問われます。日本の時事問題への深い理解が必要です。
③ 理科(Science)
理系受験者が選択します。「物理・化学・生物」の3科目から、出願時に2科目を選択します。
- 試験時間: 80分(2科目連続で解答)
- 配点: 200点(1科目100点)
- 各科目の範囲:
- 物理(Physics): 力学、熱、波、電磁気、原子。日本の高校の「物理基礎・物理」全般。工学部志望者は必須となることが多い。
- 化学(Chemistry): 物質の構成、状態の変化、化学反応、無機化学、有機化学。特に有機化学の構造式や高分子化合物は日本の高校特有の範囲が広い。
- 生物(Biology): 生命の連続性(細胞・生殖・遺伝)、環境と生物の反応、生物の進化。暗記量が多い。
④ 数学(Mathematics)
文系・理系のレベルに応じた2つのコースから1つを選択します。
- 試験時間: 80分
- 配点: 200点
- コース別の範囲:
- コース1(文系学部・数学をあまり必要としない理系用): 数と式、二次関数、図形と計量(三角比)、場合の数と確率、整数の性質、図形の性質。
- コース2(高度な数学を必要とする理系用): コース1の範囲に加え、指数・対数関数、三角関数、図形と方程式、ベクトル、複素数平面、極限、そして微分・積分(微積)。理系は計算スピードと正確性が極めて重要です。
【EJU特有のスコア算出法:IRT(項目応答理論)】
EJUは「1問5点」のような素点の合計ではありません。試験ごとに問題の難易度にばらつきが出ないよう、TOEFLなどでも採用されているIRT(Item Response Theory)という統計的処理を用いてスコアが算出されます。そのため、同じ正解数でも、受験者の正答率が高い(簡単な)問題を間違えるとスコアが大きく下がる傾向にあります。
4. 目標スコアと志望大学のレベル感
日本の大学を受験する際、EJUのスコアに加え、TOEFLやIELTSといった英語資格のスコア提出も必須となる大学がほとんどです(特に上位校)。以下は、「日本語(400点満点)」と「基礎科目(総合科目/理科+数学=400点満点)」の合計800点満点とした場合の、レベル別の目標スコア目安です。
【重要】「800点満点」だが、実際に800点は取れない?「得点等化」の罠
EJUは、試験回ごとの問題の難易度のばらつきによる不公平をなくすため、「得点等化(項目応答理論:IRT)」という統計処理を用いてスコアを算出します。このシステムにより、全問正解した場合でも、実際の「最高点」は理論上の満点を下回ります。
- 日本語(400点満点): 実際の最高点は例年 369点〜375点前後 で頭打ちになります。
- 総合科目・理科・数学(各200点満点): 実際の最高点は例年 190点〜198点前後 になります。
したがって、現実的な総合計の「実際の満点(最高点)」は、回によって異なりますが 概ね750点〜770点前後 になります。以下の目標スコアを見る際は、「800点満点」ではなく「実質760点前後のうち何点を目指すか」という視点で確認してください。
① 超難関レベル(旧帝大、早慶上智など)
- 対象大学: 東京大学、京都大学、大阪大学、一橋大学、東京工業大学(現:東京科学大学)、早稲田大学、慶應義塾大学など
- 目標合計スコア: 680点〜770点以上(得点率87%〜93%以上)
- 各科目の目安: 日本語 350〜380点以上、基礎科目 各180点以上
- 求められる英語力: TOEFL iBT 85〜100以上、IELTS 6.5〜7.5
- 解説: 留学生入試の最難関層です。EJUでほぼ満点近いスコアを取ることは「最低条件」であり、そこから各大学の厳しい独自の二次試験(筆記・小論文)や面接での勝負となります。
② 難関・上位レベル(上位国公立、MARCH、関関同立など)
- 対象大学: 筑波大学、千葉大学、横浜国立大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、同志社大学、立命館大学など
- 目標合計スコア: 600点〜680点(得点率75%〜85%)
- 各科目の目安: 日本語 320〜340点、基礎科目 各150〜160点以上
- 求められる英語力: TOEFL iBT 70〜80以上、IELTS 6.0
- 解説: 留学生からの人気が非常に高い層です。特にMARCHや関関同立の文系学部では、日本語科目でどれだけ高得点(330点以上)を稼げるかが合否を分けます。
③ 中堅レベル(地方国公立、日東駒専、産近甲龍など)
- 対象大学: 地方の国立・公立大学、日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学、近畿大学など
- 目標合計スコア: 500点〜600点(得点率62%〜72%)
- 各科目の目安: 日本語 260〜300点、基礎科目 各120〜140点
- 求められる英語力: TOEFL iBT 50〜60以上、あるいは英語提出不要の学部もあり。
- 解説: EJUのスコアで足切り(出願要件)を設定している大学が多くなります。「日本語260点以上かつ総合科目120点以上」といった基準を確実にクリアすることが第一目標です。
5. 各科目の徹底対策法
EJUは出題形式が特殊なため、過去問演習を中心とした戦略的な対策が不可欠です。
日本語科目の対策
- スピードの極意: 読解は「1問1分半」で解く必要があります。文章をすべて丁寧に読むのではなく、設問を先に読み、答えに直結するキーワード(接続詞や文末表現)を本文から探す「スキャニング」と「スキミング」の技術を徹底的に鍛えます。
- ノートテイキング: 聴解・聴読解では、1回しか音声が流れません。講義の流れ、比較されている対象、結論を素早くメモに取る独自の記号ルールを作っておくことが重要です。
総合科目の対策
- 日本の高校教科書を読む: 日本の時事や政治経済がベースとなるため、日本の高校生が使う「政治・経済」「現代社会」「地理」の教科書や参考書を読むのが一番の近道です。
- ニュースを見る習慣: 日本経済新聞やNHKニュースなどを毎日チェックし、SDGs、日本の少子化対策、国際条約などのトレンドキーワードを押さえます。
理科・数学の対策
- 過去問の反復: 数学は、答えを導き出す過程を書くのではなく、マークシートの空欄に当てはまる「数字」を入れる形式(日本の共通テストと同じ形式)です。これに慣れるため、JASSOが出版している過去問題集を時間を測って解きまくります。
- 専門用語の暗記: 理科や数学を「英語」で受験する場合でも、大学入学後は日本語で授業を受けることになります。また、過去問や参考書は圧倒的に日本語版が多いため、日本の理数系用語(例:微分=Differentiation、共有結合=Covalent bond)を日本語で理解できるようにしておくべきです。
6. 英語学位プログラム(English-taught Programs)でEJUは必要か?
近年、日本の大学では日本語が全くできなくても、英語のみで学位(学士号)を取得できる「英語学位プログラム(例:G30、SGU認定校)」が急増しています。
代表的なプログラムには以下のようなものがあります。
- 早稲田大学 SILS(国際教養学部)、TAISI、理工英語プログラム
- 慶應義塾大学 PEARL(経済学部)、GIGA(SFC)
- 上智大学 FLA(国際教養学部)、SPSF
- 国立大学(東京大学PEAK、京都大学iUPなど)
【結論】英語学位プログラムを受験する場合、原則としてEJUは「不要」です。
これらのプログラムでは、日本語での学習能力は問われません。その代わり、世界基準の大学選考と同じように、以下のスコア提出が求められます。
- 英語運用能力テスト: TOEFL iBT、IELTS、Duolingo English Test、PTE Academicなど。
- 大学入学共通資格(Standardized Tests): SAT、ACT、IBDP(国際バカロレア)、A-Levels、APスコアなど。
※例外事項(要注意):
一部の大学の理系英語プログラムなどでは、志願者の母国でSATやIBが実施されていない場合などの代替措置として、「EJUの数学(コース2)および理科(英語出題版)」のスコアを、SAT Subjectの代わりに受け付けるケースが存在します。英語学位を目指す場合でも、自分の保有する資格で出願可能か、各大学の「Application Guidelines(募集要項)」を隅々まで確認してください。
まとめ
EJU(日本留学試験)は、単なる語学テストではありません。日本の大学でアカデミックな環境に適応し、日本人学生と共に高度な研究を行うための「総合的な学力と情報処理スピード」を測る非常にシビアな試験です。
目標とする大学のレベルから必要なスコアを逆算し、「どの科目で何点稼ぐか」という戦略を立てること。そして、出願に必要なTOEFLや志望理由書(Statement of Purpose)の準備と並行して、最低でも試験の半年〜1年前からは過去問に特化した対策を開始することが、合格への唯一の道です。
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